《 クライアント 》徒然草-152

科学の進歩は日進月歩というが、人間の心は進歩・進化しているのだろうか。掃除ロボットの働きぶりを眺めていてそう思った。
忸怩たる思いで消え入りたい心境になるが、日々少しでも進化しようという想いだけは幸い失うことがない。それはクライアントのお陰である。

いつも真理を運んで来てくれるクライアント達は、本当に神の命をうけ、そのmissionを遂行している掛替えのない人達なのである。それをセラピーの時毎に感じている。その神に選ばれし崇高な行いをしているという自覚をクライアント達は持っていない。
それに気付く事は無い。何故なら神の声を聴いて従っている訳でも、神の姿に導かれて来ている訳でもないから。その特別使命に使われているとは、夢夢気付くことはない。だからこそ傲りもなく、高揚もなく、気迫もなく、平然とした涼しい顔で幾分伏し目がちのストイックな顔をして、分析室にやって来る。

真理を語る意気込みも気負いもなく、サラリと言いのけるクライアントは、唯々偉大である。私にとってその言葉に触れることは、至上の喜びであり、感動であり、ラカンとフロイトと会話できる瞬間である。
真理に触れる言葉は、理論となって、それについて私は語り合う。セラピーは何より、私とラカン、フロイトの対話の場面でもある。そしてこの真理を、精神分析が語る人間の真理を世の人々に伝えなければならないと強く意を決する時でもある。
偉大なクライアントを憐れみたまえ。