《 理想の子 》徒然草-156

次第に女性達の会話から、その可愛いいと言われる正体が判ってきた。それは、身長50~60㎝で横30㎝ぐらいでフカフカの毛に覆われた、愛くるしい姿のロボットだった。
患者にすり寄って来た何らかのアクションを求め、それに人が応じると、プログラムされた反応をロボットがする。その反応としぐさに人は可愛いいと連発するのである。

いつもなら会話はおろか、人間の声すら聞いたことのない待合室がさながらスポーツバーの熱狂する客同士の歓声が飛び交う、そんな有り様だ。
孫がいるような年齢のおばさま方は、我が子や孫とこんな風に騒ぐほどの熱烈な交流をしているのだろうかと、問いかけたくなるほど真底喜び、歓声を上げていたのである。さぞかし、明るい家庭を築けた、しあわせな人達なんだろうと想った。
が、しかし相手はロボットなのだ。それも子供のペンギンをもう少し小さくしたような、毛むくじゃらロボットなのである。両腕を上方に差し上げるポーズのロボットの意志は「抱っこして」のサインなのである。要求通り抱っこすると、目蓋を閉じて眠る仕草をするのである。この素直な反応にオバサマ達は感動し、「可愛い」と奇声を発するのである。

何度も言うが、プログラムされた通りの動きをする、血も心もない唯のマシンなのに、どうしてそれほど喜びを表せるのか、全く理解に苦しむが、彼女達にはそれがロボットではなく、唯、自分の想い通りの反応をする、素直なロボットと擬人化して見えたのだろう。
だから、その素直さをロボットに投影し、理想の子にプロジェクションマッピングしてしまったのだ。故にそれはロボットを越えた、理想の子になったのだ。因みにその子の名前は「アネモネ」だった。