《宇宙人》徒然草-127

いつの時代、何処で生まれるかによって、人の運命は既に決まっていると言ってもいい。そして私は日本の海の無い県、埼玉に生まれ、育ちは星宮地区である。
様々な地名があるが、何故か住所表記では、池上なのに、別に「星宮」という呼び方もする。その謂れを親からも誰からも聞いたことはなかった。その為、その呼称に何の想いも致さなかった。ついでにこの地区を流れる川は「星川」という。

今にして想うに、きっとこの地区はかつて、宇宙とつながっていたUFO飛来の場所ではなかったのかと。ここに、きっと基地があり、宮殿のような中央司令塔が存在し、その名残りが地名になったのだ、と独り納得した。
根拠は何も無いが、天の川のような煌めく星々を映し、流れ行く川面のゆらめきを眺めながら、往時の人々はロマンティックな気分で星川と名付けたのであろう。そう想像して宇宙に想いを馳せる時の中に埋没し、己を無にする。
時間と空間を超えて、私は宇宙と一つになる。肉体が消え、意識も消え、私は消える。在るのは星だけが闇の中で明滅し、星と星が語り合っているかのようで、それが次第に合唱のように歌い出し、ホルストの「惑星」の冥王星の消えゆくようなメロディーが聴こえてくる。

もう何も無い。心は何処にも無い。私も無い。静かだ。星宮とは、この瞬間の星だけが主役の宇宙が、ここに在ると宣言している証左の文字痕跡なのだ。
私は分析を始めた頃、クライアントからよく云われた言葉がある。一般人が言わない言葉と価値観を平然と言ってのけたのだ。それは「宇宙人」である。
精神分析家 蘇廻成輪