《 宣言 》徒然草-178

喩えるにしても、何か別な乗り物に乗って走っていると思わせるスピードに見えたのは、実際に駅伝で走った経験のある解説者だけに、その驚きぶりが素人目にはとてつもない速さであることは、何とはなしに想像できた。
大袈裟な言い方をすれば、それは超常現象である。人間の力を超えた何者かの力の作用があったことは、その驚異的スピードが表していた。目に見えない何者かの力が加わり、それが背中を押し、それまでの記録を2分も縮めた記録をつくった。

それまで5区は「山の神」と呼ばれる選手が生まれて来た。インタビューでも5区のその選手は誰憚ることなく「私が新・山の神です」と言いのけた。その言葉に誰一人訝ることも、眉をひそめる人も居ないだろう。
自信と誇りに満ちたその言葉は、説得力ではなく、感動でもなく、彼の宣言にきこえた。彼は天地神明に向かって、堂々と我は神なりと言ってのけたその潔さに私は思わず微笑んでいた。
一方で、どうして2分も縮められたのかの疑問が残った。オカルトのようにも見えたのも事実だ。何かの力に背中を押されて彼は走っていた、いやその力に乗っかって走ったのではと、超常現象のようにとらえてしまう視点を拭い去れなかった。
そんなモヤモヤした割り切れない思いが、一気にふっ切れる画面が表れた。走者の腕にマジックペイントされた記と文字が紹介されたのだ。「星七」セナと読む。これは陸上選手で駅伝を走る筈の学生の名前だった。出場前に彼は亡くなり、その彼と共に走る決意で、全員の腕にマーキングされたものだった。

セナといえばF1の貴公子アイルトン・セナを憶い出す。彼も不慮の事故で若くして亡くなっている。二人とも走る世界で颯爽と駆け抜けて星になってしまった。
星七君が選手と共に箱根を走ったのだろう。10人の走りは尋常ではない速さだった。火事場のクソ力というが、それを遥かに超えていた、とてつもないスピードだった。
この世は矢張り、科学で割り切れない現象が存在することを知らしめた箱根の道だった。一度あの峠を自分の足で走ってみたいと思った。