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ブログ  精神分析家の徒然草 

《笑えない》徒然草-104

NHKの時代劇ドラマで「大富豪同心」が放映されている。両替商の孫が、金で同心になって、CSIまがいの科学的・医学的・論理的推理力で、次々に事件を解決していく、若干ユーモアありの、少し笑えるが、真面目な時代劇サスペンス仕立てになっている。

主役の大富豪の孫は、軟弱で立ち合いには気絶し、全く役立たずにも拘らず、その不動の構えに相手は圧倒されて、剣を抜けずに恐れ戦いて、腰を抜かす様に観ている人を笑わせる。

しかし、相手はその不動の ―気絶ではあるが、又、それ故に― 微動だにしない対峙に揺れ動きが心に翻弄されて、勝手に参ってしまうのだ。人は結局己に負けてしまうということを、このドラマは伝えている。



同心の彼には全く剣の心得もないのに、相手は剣豪同心という瓦版の情報に操られて、民衆はひ弱で腰抜けの彼を捏ち上げてしまう。真実の彼は、世間が書き立てる瓦版の剣豪ではなく、唯の金持ちの若旦那でしかないのである。

その彼と剣豪の女剣士が恋をする。しかし、遊びの彼であるが、この一途な女剣士の想いに応える素直な自己表現の道を断たれた養育史がある。彼は両親に見捨てられたのだ。そして祖父に育てられ梲が上がっていても、男としてそれが上がらず、見るに見かねた祖父が、金を使って強引に社会に放り出し、同心にさせたのである。



男らしい女剣士となよなよした女のような男との恋は、何を軸に成立しているのか。男と女が逆説的で立場で恋を描くその意味は、と問いかけてみる。それは単純に女は強くなり、男がひ弱になった現代を表した、アイロニーでしかない。

戦後「女と靴下は強くなった」と言われた時代から、遂に令和に至り、女性は剣(ファルス)を持ち、男は剣を失い、女性のファルスの前に気絶してしまい、女性を仕合せに出来ない現代の世相のパロディーである。男は知と金と力に現を抜かし、女は愛されない悲劇に見舞われる現代を笑おうと言っている。実は悲しいドラマなのである。

 

精神分析家 蘇廻成輪

 

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