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ブログ  精神分析家の徒然草 

《アンニュイ》徒然草-91

私のお昼は駅前のラーメン屋さんだった。1コインで食べられる、昔ながらの中華そばの味で、子供時代、町へ行った帰りの途中の中華屋さんで父と食べたラーメンの味に似ていたのかどうかは定かではないが、とてもノスタルジックな味に感じられたので、時々食べに行っていた。

しかし、その店の汚さは半端ではなく、数十年の油が壁や天井に黒く染み込んで、年季を感じるこびりついた油であることは一目瞭然で、そこにこの店の歴史と店主の想いが、垣間見える。



店主は齢60を越えていたと思う。何とも気の抜けた、見るからに仕事への意欲もなく、だるそうに客の応待をし、そっけなく突き出すラーメンの丼をみるに、店主の仕事に対するアンニュイが漂ったラーメンをすするのだが、味はその見掛けに反して、全く美味しいのである。このラーメンの特徴は、毎日具が違うのである。

即ちトッピングされる食材は、その日材料の余りによるものに影響されていることは明らかである。何故なら、鳴戸がなかったり、チャーシューが2枚入っていたり、青梗菜が乗っていたり、およそ普通のラーメンにはない食材が乗っかっているのである。



ある時、いつものようにお昼を食べに行ったら、奥さんが真っ暗な厨房で中華ナベを振っていた。店主は体をこわし入院しているとのこと。遂にそうなったか、これでこのラーメンともさよならかと思ったら再帰復活して、又、ラーメンをつくっていた。味も変わらなかった。

いつものように予想外の具が乗り、素早くラーメンが出てきた。座った途端にラーメンが出てきた。何故か、それは出前用の箱に入っていたラーメンを私の目の前に出したのである。彼のアンニュイは健在だった。

 

精神分析家 蘇廻成輪

 

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