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精神分析者の徒然草  ブログ 

徒然草-80《牡丹》

自宅で散髪できないまま、休日に入り、どうにもさっぱりしたくて、十数年ぶりに散髪しに行くことにした。頭皮に生えてる産毛ほどの髪はとも角、眉だけが鬱葱と茂り、眼にまで届き、重く感じるようになったので、限界を知り、掟を破って床屋に行くことを決心した。

全く地理と店に疎いために、ネット検索に頼らざるを得なかった。しかし、これが又問題で、店の数が夥しく、選びようがない。そんな時は、近さと店名で選ぶ。そして、その条件を満たした店があった。「理容店さつき」だった。時に五月だし、名前から判断し、その店にした。



女性理髪師で、マスクしているので年代は判らないが、娘と切り盛りしている処をみると、60代後半に30代とみた。流石に熟練された母の手さばきは素早く、無駄な動きはなく、適確に刈っていく。娘はそれに比べると荒く、ぎこちなく、何だか仕方なしにしている仕事だというのが、櫛さばきとハサミの動かし方と音から伝わってくる。

私の注文通りに刈り進められない娘の技をみていた母が素早く交替して、手際良く、私の注文通り、整えて刈り揃えていく。何十年もこの仕事に従事してきた熟練の技術が心地良い、リズミカルなハサミの音と共に、店内に響き渡っている。

そうこうしているうちに、髪のカットは終わり、いよいよ眉に入った。ここからが難問で、私のそれは濃く長く、幅広く、とても整い甲斐のある太く長い眉だった。それを私は細かく短く、切れ長に角ばって切って欲しいと言った。

何度か注文をつけて整ったが、最後眉を全体的に薄くして欲しいと言った。すると、母はスキバサミを持って眉をスキはじめた。そして「私も何十年してきたが、眉にスキバサミを入れるのは初めてです」と言った。



人生いつになっても初めてはあるものだと思った。生きている限り、未経験な事に出くわすことはあることを知った。私もいつもtherapyしていて、もう学ぶことはないだろうと思うのだが、その度、新しい症例に出会ってまだまだだと心改める。

納得と満足のうちに終了し、支払った後に少し雑談していたら、「庭の牡丹が咲いています」と言われたので、早速観せてもらうことにして、店の裏側の自宅の庭に数株咲いた牡丹を観た。

そして石庭に苔むした小高い山の植木の整然と配置された美しい日本庭園をみた。それは主人がつくったという。妻さつきさんへの愛をみた。

 

精神分析家 蘇廻成輪


 

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