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ブログ  精神分析家の徒然草 

《絶滅の諺》徒然草-78

ロシアにしてみれば、事前準備を万全に施した末のウクライナへの侵攻の理不尽さは、彼らにとっては正当で正義な国家の意志による大儀なのであろう。国家政策の一環としてロシアは自らの行動を反省したり、抑制する視点は全く持っていないことは、破壊された街の映像をみれば一目瞭然である。

ウクライナ人の生活と生命を破壊させることにどんな意味があるとロシアは言うのだ。対話による解決がどうしてできないのか。その答えは古くからのロシアの諺をみれば判る。それは「力があれば知性は要らない」である。古くから言い伝えられている言葉らしい。



その言語に隷属し、その通りに知性と論理や道理ではなく、力による一方的な侵略を行使している、国家の覇権を顕示することだけが国家の威信であり大儀であり、利益だとするこの「力」の行使は、人間から愛や信義、共存と道理を排除して、自らの国威の堅持だけに邁進するロシアは、人類のガンである。

地球上の人類を蝕み、自らの手で人類を絶滅に追い込むこの「力があれば知性は要らない」は、人間であることの自己否定である。人間は言語を持ち知性があるから、野獣ではなく人間だと言えるのである。正に鬼畜の行いであることを推し進めるこの諺に隷属する限り、人類の平和も未来もない。有るのは、荒廃した都市の生活の痕跡を残す残骸と死体のみである。人間貴高い芸術と崇高な信仰心と英知文化遺産もすべて灰になる。何も無かった素の地球に戻る。



人は何のために社会・国家を築き、愛と美を創造して来たのか。すべての文化遺産も知もすべて無に帰する。その事を確実に予感させるのが「力があれば知性は要らない」という言葉である。人は言葉によって意味をつくり、文化、芸術を創造して来たのである。それを真向から否定するこの言葉が、この今の時代の人類史上にあったとは、驚きである。

私が行ってきた精神分析は「思考は物質化する」の真理に依った、知に働きかける治療法である。知性こそ人間が幸福で豊かな生活と人生を送る根本であるとする。その理論からすれば人間から知性を排除すれば残るのはタナトスという死の欲動だけであるとフロイトは言っている。それは証明しなくもいい、唯一の真理だ。

 

精神分析家 蘇廻成輪


 

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