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ブログ  精神分析家の徒然草 

《鳥のうた》徒然草-48

4月から5月に季節は変り、森は新緑で溢れ、中を見通すことが出来ないほどこんもりと柔らかく周囲の空気を包み、思わず深呼吸させる。緑が人の心と体を癒すエネルギーは、あの緑の色の力かもしれない。
東北道を那須に向かう道中、新緑に覆われた山々の連なりは、日本は最高に自然に恵まれた神の国と、自然にそう思え、腹一杯に緑の風を吸い込む。そして一言呟く「生きている」と。

詩涌碑庵に足を運ぶ回数が増えた。それは水抜きが無くなったから、帰宅の後始末が楽になり、行き易くなったのもある。が、自然は一気に息吹きを空一杯に吐き出し始めたから。それと対話する楽しみもあるから、通いが増えた。



鳥の鳴き声も「ホー、ホケキョ」から「スキ、スキ、スキ」に変わってきた。そんなに言われると、鳥の鳴き声で、鳥は鳥なりに意味はあって鳴いているのだろうが、それを聞く人にとっては、少しばかり気恥ずかしさを感じる。

主体を持って、シニフィアンを動かして、意味を人間に届けている訳ではないのに、そんなに言われても、どうすればいいの、と思ってしまう。愚かと知りつつ、何故か意味にきこえてしまう。
それは、詩涌碑庵にいくと、全く人間と接触せず、話すことが全くないために、鳴き声が、どうしても人間の声にきこえてしまうのである。

しかし、人も時々鳥になる。
好きでもないのに、好きと言ったり、好きなのに嫌いと言ったり、行きたくないのに、行くと言ったり、迷惑なのに、助かると言ったり、心にもない、嘘を平気で言う。



それは、鳥の「スキ、スキ、スキ」の鳴き声と全く形式が同じではないか。本来の意味とは別の意味による、誤った伝達形式において。鳥と人間が交流することも理解し合うこともない。あるのは誤解だけである。人間も云われた方は、その不一致の誤解すら気付かない。

カザルスが国連本部で、チェロを演奏した。それは「鳥のうた」という。それは「ピース、ピース、ピース」と鳴く鳥の民謡である。

人を好きになることぐらい、心に平和をもたらす感情はない。

 

精神分析家 蘇廻成輪


 

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