《極意》徒然草-44

このドラマの流れが自分そのもので驚いた。もうこの先を観ることはないだろう。
ところでこの時代劇でもう一つ驚くことがある。それは、王室の各々の部屋の戸は、すべて自動ドアなのである。王が入る時と、出る時は、自動で戸が開くのである。
どんな仕掛があるのかと思ったら、戸係りの専門の娘が左右に配置されていたのである。

昔のホテルのドアマンの様に、入る時も出る時も扉は自動で開く。
現代では何処のどんな建物でも大方自動扉である。すると、我々現代人は王や王妃ということになる。
昭和演歌で一世を風靡した歌手が云った台詞が、今でいう流行語になった。それは「お客様は神様です」。ならば、現代人は「お客様は、王様、王妃様です」ということになる。
庶民が王室を憧れたのは、この自動扉だったのだ。
その想いは、現代にまで連なり、そして結実した。今や誰もが王室の人間なのだ。
この自己愛の備給を思いついた人は偉大だ。
商売は人を神にし、王にした。そして誇大自己を育てた。

その最終形が「おもてなし」である。この言葉を聞くと、私には「表無し」に聞こえる。それは「裏ばかり」と言っているのかと思う。
表は意識で、裏は無意識は精神科学の定説である。おもてなしは、人の心の裏に触れる行為だと言っている。
人の裏とは、他者に対して秘かに願い求めている思いを聞きとり、それに言葉と行為で応えて欲しいという甘えである。
日本人はこれを「痒い所に手が届く」気のきいた人と言って、誉めそやす。
この無意識的に求める甘えの心をくすぐるのが、日本人の美徳とされている。
それは精神療法の極意である。
精神分析家 蘇廻成輪